JT国内大学奨学金(高校推薦)の応募実績(大阪、京都、奈良)を調べてみた

JT国内大学奨学金について大阪府京都市京都府奈良県の公立高校における応募実績を調べてみたのが下の表だ。数字が応募人数を、"-"は不明を意味する:

JT国内大学奨学金(高校推薦)の応募実績(大阪府京都市京都府奈良県) 2014~2019年度
府県市 JT指定公立高校          年度
2019 2018 2017 2016 2015 2014
大阪府 北野高校 1 1 1 - - -
茨木高校0 1 0 1 - -
天王寺高校2 - - - - -
大手前高校-- - - - -
三国丘高校-- - - - -
京都市 堀川高校 1 1 - - - -
西京高校0 0 - - - -
京都府 南陽高校 0 0 1 0 0 0
福知山高校1 0 0 0 1 1
奈良県 奈良高校 1 1 1 1 - -
畝傍高校0 0 0 1 - -
おおむね半分くらいの割合で応募していた。

JT国内大学奨学金とは?

JT国内大学奨学金については JT国内大学奨学金 | JTウェブサイト のページに説明がある。手厚い給付が特徴だが、ここでは次の3つの応募要件に注目する:

  1. JTが指定した公立高校に在学
  2. JTが指定した大学に進学予定
  3. 各高校1名に限り推薦可

指定高校と大学は次の通り: JT国内大学奨学金 高校推薦 指定高校・大学一覧 | 一般財団法人ジェイティ財団
いずれも高い偏差値の高校と大学で、限られた生徒が応募出来る仕組みだ。高校について偏差値を見ると70前後の上位校に限られる。

FCTC(タバコ規制枠組条約)違反

このJT国内大学奨学金制度はFCTC(タバコ規制枠組条約)によって規制されるタバコ産業のCSR(企業の社会貢献)活動に該当するため、条約違反である。本来は国がFCTCに基づきタバコ産業のCSR活動を規制する法律を作らなければいけないものの、それを怠りJTに好き放題のCSR活動を許してしまっている。他にも例えば、

と多岐に亘る。スポーツや自然また文化といった分野に注力していることから、タバコの持つ致命的有害性からそのイメージを引き離し、健康や伝統といったイメージにタバコを関連付ける意図があるものと考えられる。しかし忘れてはいけないのは、喫煙を理由として毎年日本では13万人が死亡しており、また受動喫煙が原因で1万5千人が死に至らしめられているということだ。

参考ウェブサイト: 「JTがやっているやってはいけないことCSR(社会貢献活動)とは?」のリーフレットができました
www.jstc.or.jp

JTの狙い

この奨学金制度によるJTの狙いは高学歴層にタバコ産業や喫煙に寛容な態度を取らせることだろう。喫煙率と学歴は綺麗に逆相関となることが知られている:
womanslabo.com
つまりJT奨学金制度が対象とする高偏差値の高校に所属する生徒は将来喫煙する可能性が低い。顧客とならない層へのCSR活動はメリットがあるのか?

JTが恐れるのは喫煙しない高学歴層が政界等に進出し、タバコ産業に厳しい政策が実現されることだ。前出のタバコ規制枠組条約(FCTC)に基づく規制強化が行われれば、CSR活動は勿論のことタバコの広告やCMも出来なくなるし、タバコ税も引き上げられ、喫煙率がさらに下がることが予想される。タバコ産業としてはジリ貧の状態になる。

諸外国と違い日本はタバコ規制枠組条約(FCTC)の国内法整備が遅れている。様々な要因があるが、1つに国会議員の喫煙率が高さが挙げられる。タバコ議連やもくもく会といった喫煙者やタバコ産業の利益を代弁する集団が力を持ち、2018年の健康増進法の改正にしても骨抜きにしてしまった。今後は世代交代に伴いこういった連中は減り、FCTCに沿った法制化がしやすくなるはずだ。その時に規制強化を阻む布石の1つがこの奨学金制度だろう。

つまり、今後、国会を含めた社会で影響力を発揮する立場となりうる人材に手を差し伸べ、その見返りとしてタバコ産業を容認する態度を(意識的でないにせよ)取らせ、規制強化に手心を加えることを期待しているものと考えられる。

奨学金を利用しない生徒にも何らかの影響を与える可能性はある。高校生ともなれば社会に裏表があることを知り、教師や親の言い分を鵜呑みに出来ないことも分かってくる。小中学生の時分に喫煙防止教育を受け、タバコの害を嫌という程教えこまれたとしても、タバコやタバコ産業にもいい面がある、と見直す気持ちが芽生えるのではないだろうか。

奨学金制度は2019年度を最後に終了したが、その理由に「大学等における修学の支援に関する法律」が挙げられている: 「JT国内大学奨学金」2020年度以降の新規奨学生募集を終了 | JTウェブサイト
しかし、この法律はJT奨学金制度と異なり在学する高校に制限を設けるものではないように思う。

タバコで親を失う子ども

生徒が奨学金を利用する理由は経済的困窮だ。原因は様々あるとは思うがタバコとなることもある。タバコは致命的有害性を備えるため、親が喫煙が原因で疾病に罹患または死亡すれば子どもは進路選択の幅を狭められてしまうこともあるだろう。そのような場合であっても、タバコ産業は治療費や学費を決して補償しない。自己責任であるというからだ。ここに奨学金制度との矛盾を感じる。タバコ産業はタバコの本当のリスクを喫煙者に正しく伝えてはいないし、そもそもそのような危険なものは売るべきでない。

タバコ産業がすべきことは、タバコの被害者への補償であって、タバコを吸わない人へ取り入り、社会に生き永らえようと企らむことではない。

他国の事例だが13歳で喫煙を開始し、肺ガンが急速に進行したため34歳で亡くなった男性がいる。左の写真が死の10週間前で、右が死後のものだ(手元に左の写真がある):

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Bryan Lee Curtis の生前後
詳しい経緯はここに記事がある:
whyquit.com
彼の家族や子どもはタバコ産業から何らかの補償を得たのであろうか?タバコ産業のターゲットは未成年であることが内部文書から判明している。実際喫煙者の9割は未成年時に喫煙を開始している。未成年は容易にニコチンに依存し、禁煙が困難となるため、タバコ産業にとっては優良な顧客だ。自己責任というには酷に思う。

彼の写真は今オーストラリアのタバコパッケージに採用され、タバコの危険性に警鐘を鳴らしている:
annamariacom.blogspot.com

推薦書

応募実績を調べるにあたって情報公開制度を利用し、推薦書を開示請求した。請求先は教育委員会だ。推薦があり推薦書が残っていれば生徒の個人情報を除いて部分開示される。推薦がないか推薦書が破棄されていれば開示されなかった。各高校によって保存期間が異なるため応募の有無が判明した年度に違いがある。2019年度の大阪府天王寺高校は推薦書が2枚開示された。1人しか推薦出来ないはずだが、2人推薦していたことになる。理由は分からない。京都府教育委員会の担当者が推薦の有無を高校・年度別に調査し表を作成して情報提供する、と申し出てくれたので、請求を取り下げた。

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部分開示された推薦書の一例(学校名と学校長の署名及び学校印は伏せる)と京都府での利用状況