近鉄・JR奈良駅前の指定喫煙場所が2019年4月26日に撤去

近鉄及びJR奈良駅前に奈良市が2009年(平成21年)より設置していた指定喫煙場所が2019年4月26日に撤去された。同年1月の改正健康増進法の一部施行を受けた措置だ。改正法では、屋外においても受動喫煙を生じさせない配慮義務(25条の3)が課せられたためだ。

これら喫煙場所の指定は、路上喫煙防止条例を所管する環境部環境政策によるものだったが、撤去に際しては、健康医療部医療政策課との合議を経ていた。条例の目的は、吸い殻投棄や火傷の防止が主眼であり、受動喫煙防止は含まれないようだが、健康増進法の改正に伴い、行政の意識・体制に変化が表れたといっていいだろう。

これら喫煙場所に対する市への意見・回答を調べてみたが、動線のすぐ横に設置されていた割には、年に1件程の頻度でしか投稿されておらず、少な過ぎるように思った。なお議会や総合計画審議会でも受動喫煙の問題は指摘されていた。

以下で示す文書や喫煙場所に関する情報は情報公開請求により入手した。

指定・撤去の経緯

2009年

  • 3月1日 奈良市路上喫煙防止に関する条例が施行
  • 5月7日 近鉄・JR奈良駅前それぞれ2ヶ所を喫煙場所に指定
  • 5月11日 JTが市に喫煙設備(特大スタンド灰皿4台)の寄附申込
  • 5月15日 市がJTに寄附採納決定通知
  • 5月18日 市とJTが喫煙設備の取扱いについて覚書を締結

2016年

2017年

  • JR奈良駅前東側灰皿を撤去、西側灰皿を移設(ホテル建設のため)

2019年

  • 1月24日 改正健康増進法が一部施行
  • 2月13日 筆者が市に撤去を要望
  • 3月12日 市より回答「早急に廃止の方向で、受動喫煙対策関係部署等と協議・検討」
  • 4月5日 市が撤去を決定
  • 4月26日 指定喫煙場所が撤去

参考:
奈良市路上喫煙防止に関する条例 - 奈良市

指定喫煙場所

当初4ヶ所指定され、撤去前には2ヶ所に削減・移設されていた。

撤去前の様子

グーグルストリートビューで確認する。

近鉄奈良駅前交番前:

交番前で人の往来する道のすぐ横にある。近鉄の地下出入口も近くにある。ここで喫煙がなされると周囲へ受動喫煙が必ず生じることが分かる。

JR奈良駅前西側:

一般車両乗降場のすぐ横であり、ペデストリアンデッキがその上を通る。こちらもやはり周囲へ受動喫煙を生じる場所となっている。

指定当初の喫煙場所

2009年5月7日、近鉄・JR奈良駅の周辺それぞれ2ヶ所に指定がされた。同日決裁『「奈良市路上喫煙防止に関する条例」に基づく喫煙場所について』の別紙1,2を示す:

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指定当初の喫煙場所(近鉄奈良駅前、JR奈良駅前)

改正健康増進法

2019年1月24日に改正健康増進法が一部施行された。受動喫煙の定義に変更がなされ、屋内に限らず、屋外であっても他人の喫煙により発生したタバコ煙に曝されることが受動喫煙、と認められるようになった:

(定義)
第二十五条の四 この章において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三 受動喫煙 人が他人の喫煙によりたばこから発生した煙にさらされることをいう。

喫煙をする際の配慮義務(25条の3)

また喫煙の際に周囲に受動喫煙を生じさせないよう配慮する義務が喫煙者には課せられ、喫煙場所の設置に際しても同様に配慮義務が課せられた:

(喫煙をする際の配慮義務等)
第二十五条の三 何人も、特定施設の第二十五条の五第一項に規定する喫煙禁止場所以外の場所において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない
2 多数の者が利用する施設の管理権原者は、喫煙をすることができる場所を定めようとするときは、望まない受動喫煙を生じさせることがない場所とするよう配慮しなければならない

健康増進法:
e-Gov法令検索

撤去の要望と市の回答

2019年2月13日に市に近鉄奈良駅前の指定喫煙場所を撤去するよう要望した。主に次の2点を論じた:

  • 指定喫煙場所が動線の至近距離にあるため、周囲に何の配慮もなく喫煙がなされ、受動喫煙を生じさせている
  • このような改正健康増進法25条の3に違反する喫煙がなされるのは、市が違法な喫煙場所を設置するからだ

およそ一ヶ月後の3月12日、環境政策課より次の回答があった:

「市が近鉄奈良駅前に設置する路上喫煙禁止地域内の指定喫煙場所は改正健康増進法の一部施行に伴ない違法である。早急に撤去されたい。」とのご意見についてですが、奈良市では、たばこを持った手が他人の身体に危険を及ぼす(たばこの火による火傷等)恐れやたばこの吸い殻の散乱を防ぐことを目的に「奈良市路上喫煙防止に関する条例」を定め路上喫煙禁止に関する施策を推進しています。近鉄奈良駅及びJR奈良駅前の喫煙場所は、歩きたばこ防止のため指定喫煙場所として設置しているところです。
改正後の健康増進法では、望まない受動喫煙が生じない環境の整備の観点から、多数の者が利用する施設については原則屋内禁煙としていますが、屋外については特に禁煙の規定はありません。
従いまして、近鉄奈良駅及びJR奈良駅前に設置している喫煙場所が、直ちに違法であるとはいえないと考えております。
喫煙場所の設置により歩きたばこが抑制される効果も期待できる一方で、屋外であっても望まない受動喫煙の危険性があることから、喫煙場所を設ける場合には施設の出入口付近や利用者が多く集まるような場所には設置しない、または、たばこの煙が容易に漏れ出ないような分煙施設を設置するなどの配慮が必要と考えられます。
今後、指定喫煙場所の在り方について、できるだけ早急に廃止の方向で、受動喫煙対策関係部署等と協議・検討したいと考えています。

条例の目的や喫煙場所の設置が直ちに違法でない旨弁解するものの、とにかく撤去の方向で検討してくれる、との回答であった。また受動喫煙対策関係部署と協議する、ともある。

条例に基づく指定喫煙場所の撤去について

2019年4月5日付決裁の『「奈良市路上喫煙防止に関する条例」に基づく指定喫煙場所について』において、撤去が決まった(赤囲みは筆者):

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条例に基づく指定喫煙場所の撤去について
健康増進法の改正に伴い、屋外喫煙場所においても配慮が必要なる旨、明記されている。

医療政策課と合議

撤去と指定時の起案用紙を比較すると、撤去時は医療政策課と合議していたことが分かる(赤囲み、黒塗りは筆者):

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起案用紙の比較(左: 撤去、右: 指定)
担当者に確認すると、指定喫煙場所に関して医療政策課と協議したのは今回が初めて、とのことであった。健康増進法の改正に伴い、行政の意識・体制に変化が表れたということだろう。

事前周知の貼紙

撤去を事前周知する貼紙にも「健康増進法の改正に伴」う措置であること、また「屋外での受動喫煙を防止するため」とその目的が明記されていた:

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事前周知の貼紙

喫煙場所に対する市への意見・回答

これら喫煙場所に対し市民等からどのような意見がどれくらい寄せられたのか調べてみた所、だいたい年に1件程度の頻度であった。日付以外ほぼ非公開となったため、詳細は分からない。投稿日順に示す。2013年以前の意見・回答については文書の保存期間(5年)が終了したため、廃棄されていた。

近鉄奈良駅

  • 2014年7月7日
  • 2015年8月3日(男性)
  • 2015年9月8日(女性)
  • 2016年8月8日(女性、件名: 近鉄奈良駅6番口横の喫煙所について)
  • 2018年6月17日(女性、10代、件名: 喫煙ボックスを作ってください)
  • 2019年2月13日(筆者によるもの)

JR奈良駅西側

  • 2018年10月4日(年配女性か?)

酷い場所に設置されていた割には随分意見が少ないように思う。

議会における質疑

2015年9月25日の奈良市議会にて指定喫煙場所について議論されていた。奈良市第4次総合計画(後期)を審議する基本計画検討特別委員会において、井上昌弘委員が、市民からのメールや街頭演説の際に受けた苦情を元に質疑していた。

平成27年7月 基本計画検討特別委員会 09月25日-06号:

◆井上昌弘委員 改修が必要なものについては、きちっとやっていただきたいということを要望したいと思います。
 次に、76ページ、4-03-01、環境美化の推進についてということで、環境政策課長にお聞きをしたいと思います。
 路上喫煙の問題です。75ページの課題のところには「まちの美観の形成を図るとともに、安全で快適な生活環境を確保するため、指定された場所以外での喫煙を防止し、マナーの遵守を周知徹底する必要があります。」と、それから76ページには「路上喫煙禁止地域において巡回・指導を行うことにより、喫煙のマナーやモラル意識の向上を図ります。」と、路上喫煙禁止の条例ができて、近鉄奈良駅とかJR奈良駅周辺で路上喫煙が禁止をされていると。それは、もちろんそういうことなんですけれども、指定場所では吸えると。この問題についてお聞きをしたいんですけれども、確かその2つの駅で4カ所ぐらい、屋外で何の囲いもないところで指定場所で喫煙ができるということになってると思うんですね。喫煙禁止場所で喫煙ができる、しかも何人か、その吸える場所しか吸えませんから、何人か寄って吸っているケースをよく私も見るんですけれども。
 実は、近鉄奈良駅の交番の横で街頭演説をしてたんですね。そしたら、市民の方が、すぐ近くに喫煙場所がありますから、もうもうとした煙でそこは通れないと、だから自分らは遠回りしないといけないと、このことを何とかしてもらえないかという苦情を受けました。
 それから、全く別の方からメールでも、どうして路上喫煙禁止地域でああやって吸えるのかと、矛盾ではないのかと、そういうメールも来ております。
 かえって、受動喫煙がその場所ではひどくなるというふうなこともありまして、これは大いなる矛盾だなというふうに思っておりまして、何のための禁止なのかということが私はあると思うんですね。この点について、少し何か対策というか、お考えがあれば聞かせていただきたいと思います。

◎油谷彰浩環境政策課長 失礼します。
 井上委員の御質問にお答えいたします。
 路上喫煙禁止区域における指定喫煙場所での分煙についてでございますが、路上喫煙禁止区域は、奈良市路上喫煙防止に関する条例に基づき、市民及び観光客等の身体に危険を及ぼすおそれがあり、またたばこの吸い殻の散乱を招く路上喫煙の防止を図るため、JR奈良駅近鉄奈良駅周辺地域等を指定しております。
 また、喫煙できる場所として、JR奈良駅広場と近鉄奈良駅広場にそれぞれ2カ所の指定喫煙場所を設置しております。現在、この指定喫煙場所には囲いがなく、委員御指摘のとおり、市民の方からのたばこの煙等で困っている苦情が寄せられておりますことから、指定喫煙場所の改善方法につきまして参考とするため、他の自治体での実態調査を始めております。
 今後、受動喫煙の観点も踏まえ、指定喫煙場所の位置や形態、また広さ等について検討してまいりたいと考えております。
 以上でございます。

◆井上昌弘委員 改善を検討するということですので、ぜひお願いしたいと思います。
 総合計画審議会の議事録を読んでいましても、あれは問題だと、何人かの方からも発言がありましたし、京都市ではちゃんとした囲いの中で、とにかく煙が横に行かない、上に行くようなところできちっとやっているという発言も紹介されておりましたので、これはぜひお願いをしたいというふうに思います。

総合計画審議会の議事録

井上昌弘委員が言及した総合計画審議会の議事録とは、平成26年度第2回奈良市総合計画審議会第2部会会議録のことである: http://www.city.nara.lg.jp/www/contents/1412051402453/files/daini-2.pdf

該当部分を抜粋する:
谷掛委員(6ページ)

近鉄奈良駅の交番の前に喫煙場所を設けているが、交番の前に喫煙場所を設けるのは、控えるべき。見ていると非常に若い人が多い。東京の駅前でそういうことをやったらどう思うか、奈良の一番メインの場所でやるのはいかがなものか。禁煙の時代ですから、ニューヨークのように、目立つ場所は、禁煙。歴史ある奈良にお酒、たばこの広告を大きく掲げるのはどうか。美的感覚を養っていただきたいと思います。

山下部会長(22ページ)

禁煙のことが出ましたが、灰皿を減らしても喫煙者は減りませんから、良い場所で吸える場所をつくるとか、他の人に迷惑にならないことをするとかの議論にして頂きたい。

谷掛委員(23ページ)

目に付くところでの喫煙はだめだ。

山下部会長(23ページ)

私もあれは駄目だと思う。京都駅前も私鉄の駅前も囲ってあって、煙の流れを上の方に逃がすように作ってある。

木村委員(23ページ)

日本は一番たばこの吸いやすいところと外国人が言っているのをこの前ニュースで見ました。誰も注意もしないし、歩きたばこもできる。

山下部会長の発言に「京都市ではちゃんとした囲いの中で、とにかく煙が横に行かない、上に行くようなところできちっとやっている」とあるが、これは間違いである。京都市は囲いはあるにはあるが、十分に効果は発揮しておらず、煙が横に拡散する構造になっている。

委員のプロフィール(敬称略)

参考:
会議録検索システム
奈良市第4次総合計画(後期) - 奈良市
井上昌弘(奈良県・奈良市)│議員│日本共産党中央委員会
奈良市総合計画審議会 - 奈良市
奈良市総合計画審議会開催状況 - 奈良市
谷掛整形外科診療所
山下 憲昭 【社会福祉学】 | 教員一覧 | 大谷大学
奈良県支部 | 支部 | 公益社団法人認知症の人と家族の会

屋外分煙施設の技術的留意事項の具体例について

奈良市の撤去された指定喫煙場所のような屋外喫煙場所における受動喫煙防止対策について、厚生労働省は2018年11月9日に健発1109第6号「屋外分煙施設の技術的留意事項の具体例について」という文書を発出している。

この文書を元に奈良市の医療政策課が作成した記事がこちら:
www.city.nara.lg.jp

その中には、

屋外であっても、例えば駅前や商店街などの場所においては、望まない受動喫煙対策を講じる観点から、屋外の分煙施設を設置し、当該分煙施設内で喫煙をできることとする対策をとる必要があります。

とあり、撤去前のような何も対策のない喫煙場所は認められないことが分かる。

そしてその具体例として、

  1. 壁及び天井で囲まれ、屋外排気設備のある閉鎖系の構造物の場合(コンテナ型)
  2. 壁で囲まれ、かつ天井が開放された構造物の場合(パーテーション型)

と2種類示されている。

奈良市が撤去でなく、このような施設の設置を選択しなかったのは、スペースや予算がないこともその理由だろう。

健発1109第6号:
http://www.city.morioka.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/026/571/30119okugaibunnennsisetu.pdf