厚生労働省(中央合同庁舎第5号館)が自ら非推奨とする特定屋外喫煙場所を3年間設置する件
2019年7月1日から改正健康増進法が一部施行され、行政機関は原則敷地内禁煙となった。霞が関の中央省庁もその対象であり、厚生労働省と環境省が入居する中央合同庁舎第5号館も当然含まれる。
"原則"敷地内禁煙とあることから、一定の条件を満たす特定屋外喫煙場所の設置は可能ではあるものの、健康増進法を所管する厚生労働省はこれを非推奨とする通知(健発0222第1号)を出している。
その当の厚生労働省が自らの管理する中央合同庁舎第5号館に以前より設置する屋外喫煙場所を7月の施行に合わせて廃止せず、3年間設置し続けるとの報道が6月27日にあった。この検討・周知に係る文書を情報公開請求し調べた所、改正法施行に向けた準備を怠っていたとの印象を持った。
厚労省職員、勤務中は完全禁煙へ 喫煙所廃止は3年後
6月27日の朝日新聞の報道はこちら:
www.asahi.com
段階的に禁煙時間帯を拡大し、3年後に喫煙所を廃止する予定とのこと。「禁煙外来の受け入れ人数も増やし、禁煙を促す。」ともある。
中央合同庁舎第5号館
厚生労働省の他、環境省が入居する。管理官庁は厚生労働省。
ja.wikipedia.org
俯瞰して見た写真:
高層棟(右)と低層棟(左)からなる。低層棟の手前に喫煙場所は位置する。
健発0222第1号
厚生労働省健康局長が発出した平成31年2月22日付の健発0222第1号の6ページには、特定屋外喫煙場所について
(3) 第一種施設については、受動喫煙により健康を損なうおそれが高い者が主として利用する施設であることから敷地内禁煙とすることが原則であり、本措置が設けられたことをもって特定屋外喫煙場所を設置することを推奨するものではないことに十分留意すること。
とあり、特定屋外喫煙場所の設置が推奨されないこと明記されている。
健発0222第1号: https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000483545.pdf
厚生労働省(中央合同庁舎第5号館)における敷地内完全禁煙(喫煙所廃止)に向けた方針
6月25日の幹部向け説明文書(及び後述の職員あてメール)を情報公開請求により入手した。担当課は厚生労働省大臣官房会計課福利厚生室総務班健康管理係。文書はこちら: 決裁を経ていないため、起案用紙はない。項目毎に見る。
Ⅰ考え方
○ 改正健康増進法の一部施行により、本年7月から、行政機関は、原則、敷地内禁煙となる。
○ 厚生労働省(中央合同庁舎第5号館)では、平成 18 年4月から庁舎内全面禁煙とし、同法上の特定屋外喫煙場所(以下「喫煙所」という。)に限り、喫煙可。
○ さらに、健康増進法を所管する厚生労働省として、「健康日本21」において、成人喫煙率の減少等を目標として掲げていることを踏まえ、本年7月の改正法施行を契機として、敷地内完全禁煙(喫煙所廃止)を目指し、職員が禁煙できるよう取組を徹底していく。
とある。3番目にある健康日本21とはこちら: 健康日本21。
「本年7月の改正法施行を契機として、敷地内完全禁煙(喫煙所廃止)を目指し」とあるが、本来は改正法施行にあわせて敷地内禁煙を実施するべき所、敷地内禁煙を目指す出発点としており、取り違えが見られる。
Ⅱ 目標
①令和2年4月に勤務時間の完全禁煙を実施
②令和4年4月に喫煙所を完全廃止(これに向けて段階的廃止を進める)
と2段階の大きな目標を掲げる。
[留意点]健康増進法を所管する厚生労働省として直ちに完全廃止すべきとの意見や、他の公的機関に比べ取組が進んでいないとされる可能性。
と留意点を示すが、「健康増進法を所管する厚生労働省として直ちに完全廃止すべきとの意見」は、厚生労働省の内部の意見、とのこと。全うな意見だ。このような常識的意見が無視されたのは悲しい。
また、「他の公的機関に比べ取組が進んでいないとされる可能性」ともあるが、これもその通りだ。例えば、大阪府では勤務時間中は禁煙であり、敷地内も禁煙となっている。健康増進法を所管する厚生労働省がなにゆえこのような遅れた対応をとるのか理解に苦しむ。
645 名の喫煙者が現存する以上、直ちに完全廃止しても近隣施設への流出等が予想されることから、禁煙指導の強化等と併せ、段階的に廃止することが最も現実的と考えられる。
※5 号館勤務者のうち喫煙者は 645 名(厚労省 553 名(H30.11 月)、環境省 92 名(R 元.5 月))
と喫煙所を残す理由を挙げるが、聞けば昨年11月に厚生労働省に喫煙者が553名いたことが分かって以来、特別に喫煙者減少に向けた取組を講じてはいないとのこと。禁煙相談は常に開催しているため、すごく緩やかなカーブで減少はしているらしいが、この点もっと積極的に対策するべきであったように思う。完全に後手に回っているように思う。
Ⅲ 敷地内完全禁煙(喫煙所廃止)に向けた取組
1 喫煙所の段階的縮減
喫煙所を減らすのではなく、その利用時間帯や曜日を減らす取組である。2020年4月から勤務時間中禁煙となる。勤務時間とは8:30~12:00と13:00~18:15のことである。罰則等はなく、おおむね違反なく運用されている、とのこと。
(1) 勤務時間内敷地内禁煙日の創設
- 2019年7月より月1回(第4金曜)
- 2019年10月より毎週1回(金曜を検討)
- 2020年1月から毎週2回(水曜金曜を検討)
(2) 勤務時間内禁煙タイムの拡大
従来の 9:30~11:45,13:30~15:00 の禁煙タイムに2019年7月より16:45~18:15を追加するもの。3時間45分であった禁煙時間が、5時間15分に拡大される。
2 禁煙に向けた喫煙者への個別アプローチ
(1) 禁煙外来の体制拡大
従来、週1回金曜日の午前に、1名限定で受入れしていたものを、8月よりこの金曜午前を禁煙外来専用に当て、8名まで受入れるもの。外部の禁煙外来も活用する。
これをもっと前もって実行出来なかったのだろうか。
禁煙外来は敷地内禁煙でないと保険診療の対象とならないが、喫煙場所は低層棟の横にあり、診療所が恐らく高層棟にあり別棟であるため、保険診療の対象になるように図っているのではないかと思う。
(2) 禁煙外来受診勧奨の強化
7月より
するなど、卒煙を促す取組をするとのこと。「喫煙者の個別リストを福利厚生室で作成し」ともあり、喫煙者を減らす意思は感じるが、これももっと前倒しで実行出来なかったのか、と思う。
(3) 禁煙へのインセンティブ
禁煙に成功した者に対し、共済組合よりクオカードと表彰状を授与(期間限定)。
禁煙成功者に報酬を与えることは、7月より敷地内禁煙を実施した京都府警もそれに先立つ取組の中で記念品進呈をやっていた: 京都府警が2019年7月1日から敷地内禁煙を実施。先立つ卒煙支援が手厚い。 - muen_desireの日記
が、何よりの報酬は健康だと思う。
(4) 外部講師による禁煙講習会の実施
外部専門家を招集し、喫煙者や禁煙勧奨従事職員を対象に講習会を実施。
3 近隣施設への迷惑防止の徹底
勤務時間中に喫煙目的で近隣施設へ行くことは、国公法第 99 条の信用失墜行為の禁止に抵触する場合があるため禁止(課長通知で明確化)。(P)
とあるのは、隣接する人事院や弁護士会館の喫煙場所で喫煙する職員がおり、管理部門より厳しい苦情があるため(後述職員あてメールを参照)。勤務時間中に敷地から離れることは職務専念義務に違反する行為だろう。職務より喫煙が優先されるようでは完全なニコチン依存症だ。禁煙外来で治療する他ない。
(信用失墜行為の禁止)
第九十九条 職員は、その官職の信用を傷つけ、又は官職全体の不名誉となるような行為をしてはならない。
職員あてメール
7月1日に職員あてに方針を説明するメールがあった:
内容は重複するので紹介しないが、3ページめの最後に
○喫煙所へは以下の経路を使用し、2Fでエレベーターを乗降しないでください。
とある。この経路を示したのが次の図: 喫煙所に近い低層棟の扉は閉鎖されており、なるべく遠回りして高層棟へ向かう経路が図示されている。
これは喫煙終了後も呼気に含まれるタバコ煙(呼出煙)が建物内へと持ち込まれるのを防止するためで、2016年11月10日より実施されている:
www.asahi.com
エレベーターを使用しないようにも求めているのは、呼出煙は喫煙終了後45分間は継続し、特に狭い空間での影響が大きいからだ。例えば、生駒市は喫煙後45分間、エレベーターの使用を禁止する措置を講じている:
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