日本禁煙科学会第14回学術総会に参加しました。

日本禁煙科学会第14回学術総会が2019年9月21日、22日の2日間、東大阪市大阪商業大学で開催された。これに参加した。講演のいくつかを紹介する。

喫煙室への気流0.2m/sが全くの無意味であることがシミュレーションで示されたことを知ることが出来た。

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日本禁煙科学会学術総会in大阪の看板

厚生労働省講演「厚労省の進める禁煙対策」

宇都宮 啓(おさむ)前厚生労働省健康局長の講演。健康増進法が成立するずっと以前からの厚生省そして厚生労働省のタバコ対策の歴史の振り返り、また健康局長(平成30年~)として携わった改正健康増進法の政省令策定の苦労話など。

印象的な発言がいくつかあった:

  • 役人は政治家に弱い。政治家は国民に弱い。感情的でなく、データで後押しして欲しい。
  • 生ぬるいと思うかも知れないが、一歩一歩進めることが重要(改正健康増進法について)。
  • 厚生労働省だけでは頑張れない。タバコ事業法がある限り限界がある。
  • 女性特に20代の喫煙率は本当にデータ通りに低いのか?

0.2m/s について

改正健康増進法において屋内に喫煙室を設ける場合、非喫煙区域から喫煙区域方向へ0.2m/sの速度で気流があることを要件としている。これを定めるにも数ヶ月要したとのこと。

なお、この0.2m/sという速度では非喫煙区域への煙の漏れを防ぐことが出来ない、ことが別の講演によりシミュレーションで示されていた。

受動喫煙の最新の知見 喫煙シミュレーションと火災シミュレーション~熱と拡散が引き起こす悪夢のシナリオ

株式会社環境シミュレーションの阪田 升(みのる)代表による特別講演。既存の建物における受動喫煙は、PM2.5の測定や煙の撮影により、記録が可能である。建設前の建物について、シミュレーションで予測しようというもの。

火災シミュレーションは、建築空間の火災安全性を検討するために利用される。しかし日本では、現在精度の著しく劣る二層ゾーンモデルで近似されているのが現状。(国とゼネコンはやる気がない。)

3次元煙流動シミュレーションは計算時間は要するもののより精度が高い検討が可能。京都アニメーションの放火事件もこれにより検討していれば何らかの対策を講じられた可能性がある: 火災:京都アニメーション火災

喫煙現象も火災現象も、「火源」から熱を持った気流が煙として上昇・拡散することにより被害が拡大するという共通点がある。そのため、火災シミュレーションと同じように熱流体シミュレーションが可能である。

喫煙室から人が出る際の煙の漏れのシミュレーションがこちら:
www.env-simulation.com
人の背中に煙が引き込まれ、喫煙室の外に漏れることが分かる。非喫煙区域から喫煙室への0.2m/sという速度の気流は何の意味も持たない。

またスライドドアの方が、ヒンジドアより、煙の漏れが多いことが分かった。ヒンジの場合、自分が通れる分だけ開けるため、より開口部が小さくなる。

喫煙区域と非喫煙区域に風除室を設け、喫煙区域-スライドドア-風除室-ヒンジドア-非喫煙区域といった構成にすると煙の漏れを抑えることが出来るようだ。風除室にエアカーテンを設置するとかえって空気を攪拌し、逆効果になることも分かった。

一定速度の気流を確保するのではなく、開閉時により速い気流を制御してはどうか、とのこと。

※呼出煙はシミュレーションされていない。
※日本禁煙科学会としてはこの成果を元に、一人一人が喫煙室を設置しないよう働きかけるのが大事との立場。

屋外喫煙場所にも応用出来ないのだろうか?大阪府が"屋外分煙所"なるものの整備計画を発表したが、ここからの煙の漏れを予測出来れば、計画の誤りを指摘しえないか?
www.pref.osaka.lg.jp

禁煙の新たな地平-受動喫煙防止と加熱式タバコの最新情報

鹿児島大学の敷地内禁煙化(予定)

2020年1月から国立大学法人鹿児島大学は敷地内完全禁煙となる。この道のりを鮫島久美保健管理センター助教が紹介。次の3点がうまく後押しし実現予定とのこと:

健康管理センターは2002年の健康増進法の施行以来、敷地内禁煙化に向け地道に活動を続けて来たが、教育学部を敷地内禁煙にすると路上での喫煙が相次ぎ、近所から苦情が来た。この経緯から「身勝手な敷地内禁煙はしない」との考え方が生まれ、その後の禁煙化への障壁として立ちはだかることになる。

2018年12月11日、総務省九州管区行政評価局が九州の4国立大学法人に敷地内禁煙化を含めた受動喫煙防止対策の推進のあっせんをした。これに対しても当局の動きは鈍く、保健管理センターも敷地内禁煙化を求める意見書を出したが、翌年2月22日に発表された総務省への回答は「検討を行う」というもので、敷地内禁煙を決定した佐賀大学宮崎大学に比べ、劣る内容であった。

2019年5月23日に鹿児島大学における敷地内全面禁煙に関する基本方針が学長裁定により出された。喫煙場所を2019年12月末迄に全て廃止し、2020年1月より敷地内禁煙とするもの。「身勝手な敷地内禁煙」を避けるため、学生は通学開始から帰宅時まで喫煙禁止、工事関係者も近隣での喫煙禁止、喫煙者の健康被害防止のため加熱式タバコも対象に含めるといった徹底したもの。4月からの新体制が全員非喫煙者であったことが影響したようだ。

当初のロードマップでは、喫煙場所の一部廃止(削減)は9月30日の予定であったが、鹿児島市保健所から7月1日に施行される改正健康増進法に適合するよう指導を受けたため、6月30日に撤去・移設された。保健所は佐賀県NPO法人より指摘を受け動いたとのこと。

保健管理センターの宿願が叶った形ではあるが、本来は法で例外規定を設けるべきでないように思った。

加熱式タバコの最新情報

禁煙科学でKKEを連載している舘野博喜氏による加熱式タバコの最新情報についての論文紹介。

KKEでの紹介論文が主で、こちらから日本語で読める:
日本禁煙科学会/学会誌「禁煙科学」メニュー

職場・家庭における禁煙推進とTOKYO2020受動喫煙防止

「保険者機能を推進する会」の一部である「たばこ対策研究会」が創出してきたルールや蓄積してきたノウハウの一部の紹介。2019年12月6日にシンポジウムを開催予定とのこと。