大阪府の交野(かたの)市は、市役所庁舎等における改正健康増進法への対応を検討する際、JTに聞き取りを行い協力を得るなど、接触していた。
たばこ規制枠組条約第5条3項の実施のためのガイドラインに反する行為だ。『タバコ産業と公衆衛生政策の間には、根本的かつ相容れない利害の対立が存在する』のであるから、協力を求める相手の選び方を間違ったという他ない。
タバコ産業は禁煙化を阻むことがその利益に適う。本館・別館、ゆうゆうセンターいずれも敷地内禁煙とならなかった。
経緯
太字は情報公開請求で明らかになった部分を示す。
2018年
- 7月25日 改正健康増進法が公布
- 9月21日 第10回たばこの健康影響評価専門委員会が開催
2019年
- 1月10日 大阪府が「望まない受動喫煙防止に向けた基本的考え方」への意見募集開始
- 1月17日 政令第5号にて改正健康増進法の施行期日が公布
- 2月15日 総務課がJTに聞き取り
- 2月22日 健発0222第1号が厚生労働省より出される
- 3月15日 総務部長が議会で答弁「JTの協力を得て調査・検討」
- ?月?日 大阪府が受動喫煙防止条例(3月20日公布)の説明会開催
- 4月24日 交野市で府条例を共有するための説明会開催
- 6月12日 総務課にて本庁・別館の喫煙所の対応について決裁
- 6月13日 健やか部長と総務部長が改正法及び府条例について情報提供
- 6月17日 議会へ報告(来庁者用喫煙所の移設について)
- 6月19日 議会へ報告(各施設の対応について)
- 7月1日 改正健康増進法が一部施行(行政機関は原則敷地内禁煙)
2020年
JT聞き取りの課内報告書 平成31年2月15日
内容からして総務課がJTに聞き取りを行ったのだろう。その報告書: 2019年7月1日より行政機関は原則敷地内禁煙となり、特定の要件を見たす「特定屋外喫煙場所」のみ認められる。厚生労働省がこの要件を省令(健発0222第1号)により明らかにしたのが、ちょうど翌週の2月22日であり、この時点では知られていなかった。
聞き取りの目的は、
いずれもあえてJTに聞き取りする必要のなかったことだ。
(1) 改正健康増進法の施行期日は1月17日付けの政令第5号にて公布されていた。
(2) 特定屋外喫煙場所の要件は2018年9月21日開催の第10回たばこの健康影響評価専門委員会にて議論(資料1参照)されていた。報告書には
※JTが確認したところ、ラインを引くだけでも区画として認められる。
ともあるが、これも委員会の議事録に『○祖父江委員長 線が引いてあるぐらいの感じですか。』との発言で確認出来る。
(3) 特定屋外喫煙場所とは別に、屋外分煙施設については地方財政措置の対象となることも同委員会で示されていた。
(4) 大阪府受動喫煙防止条例について、『敷地内全面禁煙を努力義務とする。』とあるが、1月10日に大阪府が募集を開始した「望まない受動喫煙防止に向けた基本的考え方」のパブリックコメントに案として示されていたものだ。
出典:
- 平成31年1月17日 木曜日 官報(号外第9号) インターネット版官報
- 第10回たばこの健康影響評価専門委員会 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_01552.html
- 「望まない受動喫煙防止に向けた基本的考え方」に対する府民意見等の募集について: 大阪府/【終了しました】「望まない受動喫煙防止に向けた基本的考え方」に対する府民意見等の募集について
タバコ規制枠組条約第5条3項の実施のためのガイドライン
交野市のJTとの接触は、WHO たばこ規制枠組条約第 5 条 3 項の実施のためのガイドライン「たばこ規制に関する公衆衛生政策をたばこ産業の商業上及び他の既存の利益から保護すること」に反する。
ガイドラインの勧告2.1は、
締約国は、たばこ産業及びたばこ製品の効果的な規制を実現するために、たばこ産業との接触は必要なとき、必要な範囲に限るべきである。
と、JT等のタバコ産業とは距離を置くべきとしている。交野市はJTと必要もなく接触した。この勧告に反する。
また勧告2.2は
たばこ産業との接触が必要な場合には、締約国はかかる接触が透明に行われるようにすべきである。可能な限り接触は、公聴会、接触の公知、当該接触の記録一般開示など、公に行うべきである。
とあるが、この接触は非公開の場でなされ、また記録(課内報告書)は一般開示されていない。JTからの来訪者名は不開示とされた。
前出ガイドラインは『原則1:たばこ産業と公衆衛生政策の間には、根本的かつ相容れない利害の対立が存在する。』と示しており、禁煙化を進めるべき施設管理者と、タバコ産業とは対立する関係にあることが分かる。その理由は次の通り:
たばこ産業は、常習性があり、疾患や死亡の原因となり、また貧困の増加など様々な社会悪を引き起こすことが科学的に実証されている製品を生産し、販売促進している。このため、締約国は、たばこ規制のための公衆衛生政策の制定及び実施を可能な限り、たばこ産業から保護すべきである。
しかし交野市はJTに聞き取りを行ってしまった。
行政機関は敷地内禁煙が原則であるのだから、禁煙を前提として検討すべきところ、市民用の喫煙スペースは「場所を変える必要がある。」、職員用は2ヶ所とも「現状のままで活用可能。」と移設・残す方向性で検討がなされたかのような書きぶりだ。
これでは市民、来庁者、職員を受動喫煙から守れない。
出典:
WHO たばこ規制枠組条約第 5 条 3 項の実施のためのガイドライン「たばこ規制に関する公衆衛生政策をたばこ産業の商業上及び他の既存の利益から保護すること」
https://www.mhlw.go.jp/topics/tobacco/dl/fctc_5-3_guideline_120506.pdf
交野市 平成31年3月 総務文教常任委員会 03月15日-04号
JTへの聞き取りが議会で触れられていた。3月15日の総務文教常任委員会での三浦美代子委員と総務部長とのやりとりの中でのことだ。
◆委員(三浦美代子) 私は、来年度というか8月から受動喫煙防止法が施行されますが、その予算はそういう場所をつくらなければならない市役所内であったり、市民向けにですけれども、職員の皆様もその場所はつくらなければならない、その予算が入っているかどうか教えてください。
◎総務部長(倉澤裕基) 私どものほうではJTの協力を得まして、設置場所等について調査していただいて、今現在検討中ですが、設置場所等の詳細については、まだ国からも示されず、また大阪府のほうでも条例化するということを伺っておりまして、その条例を遵守するということもありまして、現在、31年度予算には計上しておりません。
◆委員(三浦美代子) 大阪府の条例ができて、それに準じて交野市も考えましょうということでよろしいんでしょうか。すみません、ちょっと今の説明はすみません、もうちょっと。
◎総務部長(倉澤裕基) その条例の内容も準じなあかん条文もあるかもしれないので、それが出た場合は当然それに従わざるを得ないので、それを確認した上でということでございます。
◆委員(三浦美代子) ゆうゆうセンターについてもそうだと思うんですけれども、いわゆる全ての施設について、受動喫煙に対しても明確にしていきましょうという状況でありまして、来年のオリンピックに向けてますます機運が高くなってくると思いますので、うちだけが何もせえへんかったみたいなことがないように、しっかりと市民の皆様から、市役所に来られる市民の皆様からもクレームが出てきては、市役所が一番模範になるべきやと思いますので、その辺の対応、国と市と大阪府の方向性、条例等が出てきましたら速やかに対応していただきますよう要望しますので、よろしくお願いいたします。
出典:
交野市議会 会議録検索システム メインメニューページ
「大阪府受動喫煙防止条例」説明会の開催について(通知)
4月24日、各施設管理担当課を対象とする説明会が開催された。大阪府主催の説明会で得た情報を共有するのが目的。総務課長と健康増進課長の連名による案内:
報告書
説明会の報告書がこちら(印影の黒塗りは筆者による。以下同様): 現状が整理され、様々意見が交わされている。意見の最後、
今回情報共有して、各施設でどうしていくか考えて欲しいということだが、こういうことは市としていつから敷地内禁煙すると四條畷のようにトップダウンでないとすすまない。
市長・総務部長・健やか部長がいつからすると決めてもらったら従う。
と、トップの指示を仰ぎたい、とあったが、現在の市長は喫煙者らしいのでトップダウンは期待出来ない。首長には非喫煙者を選ぶべきだろう。また法に例外規定を設けるべきでなかったことも分かる。
「改正健康増進法」に基づく第一種施設における受動喫煙防止対策について(伺)
7月1日からの本館(本庁)・別館の喫煙所についての文書(6月12日決裁)がこちら(赤枠は筆者による加工): 2月15日のJT聞き取りでは「場所を変える必要がある」とされた「2. 来庁者用喫煙所」について
本館正面玄関 西側 → 3階 西側ベランダへ移設(特定屋外喫煙所)
区画について、JTと協議の上、簡易な仕切りを設置予定。
と決められた。
「3. 職員用喫煙所」の下に
※大阪府受動喫煙防止条例では、2020年4月より第一種施設においては「敷地内全面喫煙(※禁煙の間違い)」となり、特定屋外喫煙場所の設置も不可となる。
とあり、2020年4月より喫煙所を全廃する予定のように読める。
議会への報告事項(6月17日)
来庁者用の喫煙所が移設される本館3階は議会フロアのため、議会への協力依頼が総務課よりなされた:
議会への報告事項(6月19日)
2日後、再度議会へ今度は市の各施設の対応について報告がなされた:
各施設の喫煙場所一覧がこちら:
ゆうゆうセンターについて
福祉総務課が所管するゆうゆうセンターは来庁者、職員用ともに既存継続となった。ここへもJTが見に来たと言っていた。しかし総務課が作成したような課内報告書また決裁文書は作成されなかった。
山本けい議員の指摘により来庁者用喫煙場所は平成29年9月29日に移設されたが、その際も文書はされなかったとのこと。
文書を作成せずして、市民への説明責任を果たせるのであろうか。
参考:
交野市役所、交野市教育委員会、交野市環境事業所、の喫煙のヤミを暴く | 取り戻そう、私たちの交野。 山本けいオフィシャルブログPowered by Ameba
倉治図書館
7月1日より敷地内禁煙となった。
倉治図書館におきましては、乳幼児から高齢者まで幅広い多くの市民が利用されることから、法改正及び条例制定の趣旨を勘案し、令和元年7月1日から敷地内全面禁煙(「加熱式たばこ」を含む)としますので、ご理解ご協力いただきますようよろしくお願いします。
とウェブサイトに理由が記されている。