松井前府知事の公用車内喫煙への意見が速報集計で無視された件

大阪府の松井前知事(2011年11月~2019年3月)が2018年10月2日に府庁を公用車で周回しながら喫煙していたと、同月11日及び22日に府議会で追求され、報道された。これについて「府政へのご意見」に4週間程度に亘ってのべ100件以上もの意見が寄せられた。

府の広報課は1週間毎に集計し速報を発表する。そこでは多く寄せられた意見も紹介されるが、公用車喫煙については触れられなかった。情報公開請求で入手した起案文書には記載があったが、決裁で削除されていた。広報課はこれら意見は「知事の姿勢に関するもの」であり、府政への意見ではない、とその理由を説明した。

しかし意見の中には、同乗運転手への受動喫煙またその防止の必要性を指摘するものがあった。つまり、公用車をタクシー同様に禁煙とすることは公衆衛生政策の一環であり、これに関する意見は「たばこ対策に関するもの」として公表されるべきであった。

大阪市大津市(滋賀県)では以前より公用車内は全て禁煙であるし、大阪府警も2019年4月から公用車は例外なく禁煙となった。いずれも受動喫煙防止が目的だ。府の広報課は公衆衛生政策を正しく理解した上で、府民意見を矮小化することなく処理すべきだ。また意見する際も、公衆衛生政策の観点からと論点を分かるようにするのがよいだろう。

松井前府知事の公用車内喫煙

松井前府知事が10月2日の本会議の休憩時間に公用車内で喫煙した。それを目撃した密城(みつぎ)浩明議員が11日の総務常任委員会にて質疑し、12日に報道された:
www.asahi.com

22日に今度は松井知事の出席のもと再度質疑がなされた:
www.asahi.com

乗用車内での受動喫煙

車の中で喫煙すると同乗者は極めて高濃度のタバコ煙に曝される:

車内で喫煙すると、中国・北京の最悪汚染時に匹敵する濃度になる

出典:
屋内で発生するPM2.5にも注意が必要|現場レポート|47号|WEB版すこやかライフ|ぜん息などの情報館|大気環境・ぜん息などの情報館|独立行政法人環境再生保全機構

議会でのやりとり

みつぎ浩明府議会議員による10月11日と22日の追及を議事録から振り返ると、税金の無駄遣いや自らに甘い姿勢への批判が基調。運転手への受動喫煙について言及はされない。公用車内での喫煙について理解を示す場面もあった。
出典:
大阪府議会 会議録検索システム メインメニューページ

大阪府 平成30年9月定例会総務常任委員会 10月11日-01号

税金の無駄遣いを指摘:

◆(みつぎ浩明君) ぐるぐる府庁の周りを回ってコーヒーを中で飲んでいたということですか。これ、コーヒー飲むんだったら知事室で飲んだらいいじゃないですか。普通考えたらそう思うんですよ。わざわざ府民の税金で動かしている車を用意して府庁の周りをぐるぐる回って、その中でコーヒーを飲む必要は全くないと思うんですよね。
 これ、私思うんですけど、知事の車、公用車の中で、たばこを吸うてたん違いますか。言いかえると、たばこを吸うために公用車を利用したんじゃないですか

公用車は禁煙でないと答弁:

◎秘書課長(伊藤弘三君) 先ほど答弁したように、公用車というのは禁煙ではございません。当日は、公用車内で休憩されながら喫煙されたと聞いております。私は、秘書課といたしましては、府政の円滑な推進をサポートするというのが私どもの仕事でございまして、非常にきめ細かい配慮を私たちはやっております。そういった意味で、私の権限で、公務遂行上、警備上の必要性から公用車を使用するに至りまして、こういった配慮をしたということでございます。

公用車は禁煙でないと答弁:

◎庁舎管理課長(山本賢次君) 公用車につきまして、車内禁煙と規定したものはございません。ただ、一般職員は勤務時間中は禁煙となっているため、職務で公用車を利用した場合は、一般職員は禁煙となります。

みつぎ議員は、運転手や秘書への受動喫煙を問題とはしていない。車内喫煙を理解出来る、としている:

◆(みつぎ浩明君) 知事、それから議長、副議長、公用車ありますよね。次の移動する先まで公用車を使います。その間にたばこを吸う、一定理解しているんですよ、それは。それがだめだと言うんだったら、たばこを吸ってから乗るか、向こうに着いてからたばこを吸うところを探さないといけないですから、それはいいと思うんですよ。でも、今回の場合はどこかに行くとかいうついでじゃないでしょう。わざわざたばこを吸うために公用車を正面玄関に待たせているじゃないですか。そういう使い方は私はだめなんじゃないですかというふうにお尋ねしているんですけど、いかがですか。

みつぎ議員が問題視するのは、今後条例を制定し、受動喫煙防止対策を強化する立場にある知事が、わざわざ公用車を動かしてまで喫煙に及んだそのあり方にあったようだ:

◆(みつぎ浩明君) これで質問やめますけどね、今受動喫煙に関して、大阪府で来年の二月議会にでも提案をしようというふうな話で今議論されていますよね。府民であるとか事業者の方に一定の制限をかけていこうというふうな条例を大阪府が議会に対して上程してこようかというふうなことを議論している中で、今回の公用車の使い方というのは、ちょっと余りにもお粗末なんじゃないのかなと私は思います。この件に関しましては、知事にも聞きたいと思いますので、よろしくお願いします。

大阪府 平成30年9月定例会総務常任委員会 10月22日-03号

みつぎ議員の妻は喫煙者:

◆(みつぎ浩明君) あくまで休憩のためだったと。つまり、休憩とたばこは別々のもんやと、そういうことだと思います。我が家にも、超愛煙家がおりまして。うちの家内なんですけどね、聞いてみました。そしたら、たばこと休憩は一体のもんやと、たばこ吸うために休憩するんやということでした。知事一人が言うてるだけかもわからへんから、ほかの周りの愛煙家のお母様方にも聞いてみましたが、みんな同じ答えでした。それでも、知事は、休憩とたばこは別々のもんやと、あくまで休憩のための公用車使用だったと言いわけをされますか。

みつぎ議員も喫煙者のようだ:

◆(みつぎ浩明君) 私たち議員も、喫煙コーナーで吸ってますしね。ましてや、府民の方がいらっしゃるんだったら、そこへ行って府民の声を直接聞くというふうなこともやられたらいいと思いますけども、とにかく今回の問題については、歯切れのよさが松井知事のよさやと私は思っていますけども、苦しい言いわけをされてるなというふうに思っています。一円の税金も無駄にしない、まずは政治家がみずから身を切る、多くの府民はそんな松井知事の姿勢を支持されているんだと思います。でも、ちょっと今回の件は言うてることとやってることが違うんじゃないのかなというふうに思っている府民もいらっしゃると思いますが、今からでも素直にあかんかったものはあかんと認めて謝罪されるのが松井知事らしいと思いますが、いかがですか。

税金の無駄遣いを指摘:

◆(みつぎ浩明君)
 だから、あなたは今回の行為そのものが適切だったかどうかということをちゃんと説明をしなければなりません。休憩なら知事室でもできますし、頭の整理をするなら知事室のほうがひとりきりになれます。コーヒーも知事室で飲めばよいし、たばこを吸うなら喫煙コーナーにまで行けば済む話です。その時間帯、喫煙コーナーには職員はいません。どれ一つとってみても、税金で動いている公用車を正面玄関にわざわざ用意をして、六分間どこに行くでもなく、ただ庁舎周辺をぐるぐる巡回させながら行うことではないと私は思いますが、それでもあなたは今回の行為を問題のない適切な行為だったというふうにおっしゃいますか。

一般職員が勤務時間中禁煙であるのに対し、知事は自らに甘い姿勢を批判:

◆(みつぎ浩明君) それを知事特権と言うんじゃないんですか。
 大阪府では、職員の喫煙に関しては極めて厳しい基準を設けています。勤務時間中の喫煙禁止、勤務時間の内外にかかわらず庁舎敷地内の喫煙禁止であります。平成二十年二月以降、基準に違反し、九名の職員が処分されているということであります。そして、この七月には、改めて松井知事名で通知を出して、今後の違反者にはさらに厳しい処分を科すという方針であるということであります。職員には厳しい基準を課しておきながら、自分だけは特別職であることを理由に公用車の中でたばこを吸う、職員に対する示しがつかないと思いますが、いかがですか。

松井知事名の通知と9名への処分についてはこちらにまとめてある:
muen-desire.hateblo.jp

公用車の禁煙化を質問するが、流れからし受動喫煙防止の観点ではない:

◆(みつぎ浩明君) 公用車、今後禁煙にされませんか。
 
◎知事(松井一郎君) マナーを守って喫煙させていただきたい、こう思っています。
 
◆(みつぎ浩明君) 今後も、窓をあけて吸われるという宣言ですね、そういうことですね。窓をあけて吸われるという、そういう宣言ですね。禁煙されないと。
 
◎知事(松井一郎君) 禁煙いたしません。

府政へのご意見

10月12日から11月2日にかけて、この件に関し計106件の意見が「府政へのご意見」に寄せられた。

問題なし、というものより前知事への批判が多い。批判はみつぎ議員に同調したものの割合が多い。松井前知事に対し、禁煙(卒煙)しろ、というものもある。

批判の中には、公用車は車内禁煙であるべきとする意見や、運転手への受動喫煙を指摘するなどといった、たばこ対策に関するものもあった。

意見の内訳・推移

意見の内訳と推移を表にした:

日付 意見件数 問題なし 批判(車内禁煙・受動喫煙の指摘)
10/12 44 10 34(8)
10/15 11 3 8(3)
10/16 7 3 4(1)
10/17 2 2 0(0)
10/18 4 0 4(0)
10/19 2 1 1(1)
10/22 4 2 2(0)
10/23 18 1 17(5)
10/24 5 0 5(1)
10/25 3 0 3(3)
10/26 1 0 1(1)
10/29 2 0 2(0)
10/30 1 0 1(0)
10/31 1 0 1(1)
11/1 1 0 1(0)
11/2 0 0 0(0)

質疑の翌日に報道がなされたため、それぞれ意見件数が伸びている。

車内禁煙・受動喫煙に関する意見

上の表のうち、車内禁煙・受動喫煙の指摘と分類した意見がこちら:

「運転手が我慢」といった記述についても受動喫煙に関する意見として扱った。

「最近1週間の府民の声の公表について」の起案文書

4週間分について開示請求した。起案者はそれぞれ異なる。

3,4週めの10月20日~26日、10月27日~11月2日分について、起案文書に喫煙の件への言及が見られた。

2018年10月6日(土曜日)から2018年10月12日(金曜日)までの分

平成30年度 広 第1029-28号
2018年10月6日(土曜日)から2018年10月12日(金曜日)までの起案文書がこちら。起案は2018年10月15日付。知事の喫煙に関する記述はない。報道のあった12日に寄せられた意見が倍増していることが分かる。

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2018年10月6日(土曜日)から2018年10月12日(金曜日)までの分の起案

公表:
大阪府/最近1週間の府民の声:2018年10月6日(土曜日)から2018年10月12日(金曜日)まで

2018年10月13日(土曜日)から2018年10月19日(金曜日)までの分

平成30年度 広 第1029-29号。前週同様、喫煙についての言及はない。

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2018年10月13日(土曜日)から2018年10月19日(金曜日)までの分の起案

公表:
大阪府/最近1週間の府民の声:2018年10月13日(土曜日)から2018年10月19日(金曜日)まで

2018年10月20日(土曜日)から2018年10月26日(金曜日)までの分

平成30年度 広 第1029-30号。喫煙に関する記述が2枚目の右下にある:

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2018年10月20日(土曜日)から2018年10月26日(金曜日)までの分の起案

『知事の喫煙に関する意見』と書かれていたが、決裁で削除された(拡大):

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「知事の喫煙に関する意見(トル)」の記述
しかし上で見たように、車内禁煙や受動喫煙に関する意見が10件あった。テーマ「知事の姿勢に関するもの」として扱われてしまったが、本来は「たばこ対策に関するもの」として扱われるべき意見だ。削除すべき理由はないし、主なご意見の欄にて紹介されるべき意見であった。

公表:
大阪府/最近1週間の府民の声:2018年10月20日(土曜日)から2018年10月26日(金曜日)まで

2018年10月27日(土曜日)から2018年11月2日(金曜日)までの分

平成30年度 広 第1029-31号。この週にも喫煙に関する記述があった。

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2018年10月27日(土曜日)から2018年11月2日(金曜日)までの分の起案

「公用車における喫煙」の意見は、府政への意見ではない、と書かれている:

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『知事の姿勢では「公用車における喫煙」の意見であるが府政への意見ではないため』の記述
この週は1件だけではあるが、たばこ対策に関する意見があった。

公表:
大阪府/最近1週間の府民の声:2018年10月27日(土曜日)から2018年11月2日(金曜日)まで